C'est la vie!

 

 高校受験生のあたしは、片思いしてる男の子を想いながらも勉強に費やす日々。来る日も来る日も勉強、勉強、勉強!「もういやっ!!」ってなるけど、でも憧れの彼と同じ高校行くため頑張る!!・・・・・・けど、でも不慮の事故から幽霊になっちゃった!?

しかも何故か憧れのあの彼も一緒に幽霊!?

成仏しようと憧れの彼と一緒にゴーストライフをはじめるけど、大御所幽霊のクロウさんと、謎の美人ゴースト・ブリトニーの登場に、ハッキリ言って成仏どころじゃない!?

どうなるあたしの未来!

 


  • ラブ甘度    ★★★★☆
  • ピュア度    ★★★★☆
  • コメディ度   ★★★★☆
  • ゆる度     ★★★☆☆


先輩と僕。

 

 

 

先輩は仕事がデキる



先輩は厳しい



先輩はよく怒る



先輩は嫌われてる

 

 

でも



先輩は可愛い



先輩が好き



でも

 

 

 

先輩は好きになっちゃいけないひと

 

 

 

 

 

僕には好きな人が居る。



―――それは、絶対に好きになってはいけない人。



遠藤えんどう~、お前まぁた倉本くらもと女史に怒られてたよな。大丈夫かぁ?」



昼の休憩時間、社員食堂でたまたま一緒になった、同僚二人から声を掛けられ僕は目だけを上げた。休憩時間は残り十分程だ。

 

 

倉本女史と言うのは僕の直属の上司で、僕が働く広告代理店の営業ウーマンでもある。



美人で仕事ができて、クールで。



「でもあれだけ美人でももったいないよな。クールって言やぁ聞こえはいいけど、冷た過ぎ、ついでに言うとキツ過ぎ」

 

 

 

「あの人のパワハラのせいで何人も同期たちが辞めてったよな。お前で3…4人目?」



パワハラ??まぁ言い方キツイし、厳しいけど僕はそれ程ダメージを受けてはいない。



何故なら僕が好きな人は倉本先輩なんだから。僕のたった三歳上の27際なのに営業部のエースにしてすでに主任を任されている。

 

 

「出世街道まっしぐら、だよな。でも、あれで結婚してるって言うから驚き」



「いくら美人でもあれ・・じゃ俺も家に帰り辛ぇわ」



そうなのだ。僕の好きな倉本先輩は結婚している。細くてきれいな左手薬指にはまっている、ダイヤが散りばめられたプラチナのリング。

 

 

あれが憎らしくて仕方がない。



けど倉本先輩を奥さんにするぐらいの伴侶なら、彼女以上のスペックがあるに違いない。だって今の僕には逆立ちしたってあんなきれいで豪華な指輪をプレゼントすることすらできない。



ついでに言うと倉本先輩に与えられた仕事もまともにこなせない。言わばお荷物状態だ。

 

 

P.1


 

「遠藤くん。休憩二分過ぎてるわよ」



突如として現れた倉本先輩の登場に、噂話をしていた同僚たちが顔色を青くする。倉本先輩は僕のすぐ後ろに突っ立ってファイル類とビジネスバッグを片手に腕時計をしきりに気にしている。

 

 

きっと同僚たちの悪口も聞こえていたに違いないのに、顔色一つ変えない。



この後、倉本先輩と同行してクライアントの会社に向かう予定だった。



「す、すみませ!」慌てて席を立ち上がろうと、

 

 

「いいわ。キミを待ってると時間に間に合わないから。さっき頼んだモニターの統計、データにして私のPCに送って。そうね、私の移動時間も考えて十分以内」



「は、はい!」



僕は直立不動。



倉本先輩はまとめた黒い髪の一筋も乱れもなく颯爽と行ってしまう。

 

 

 

「遠藤、ガンバ…」



「あれじゃぁお前も大変だな」



と、同僚たちには同情されたが、僕はそんな言葉が耳に入ってこなかった。



さっき……倉本先輩が立ち去るとき、きれいにまとめた夜会巻きの髪から一筋…そう、ほんの一筋だけ後れ毛が彼女の白く細い首を滑っていた。それに見惚れていた。

 

 

同僚たちも含め、周りは僕に同情的だ。



「遠藤くん、この数字間違ってたわよ。やり直して。五分以内に」



「遠藤くん、さっきの電話のやり取りは何?あれじゃクライアントに不信感を与えるだけよ」



「遠藤くん、コピーの枚数間違ってるわ。キミはまともにコピーも取れないの?」

 

 

 

――――

 

――



「お前も良くやるよ。倉本さんの直属で、もったのお前が最長。半年!記録更新だな」と同僚は人事だと思ってからかい半分。



そりゃ時々…ほんの一瞬イヤになるときはあるさ。けど、倉本先輩の顔を見るとどうしても憎めない。

 

 

憎むべきは、彼女の左手薬指に光っている指輪だけだ。



でも



プライベートのパートナーは望めなくても、せめてビジネスパートナーとして肩を並べたい。



……なんておこがましいかな。

 

 

P.2

 


 

そんなある日



僕は倉本先輩に頼まれていた書類の統計に悪戦苦闘中、定時になってどんどん退社する社員たちを見送りながら一人黙々と書類作成に掛かっていた。倉本先輩は外回りで確か直帰だった筈だが、約束の21時までに彼女のPCにメールを送るよう言いつけられている。



ヤバっ!あと二十分もない!

 

 

あせあせとPCに向かっていると



「あら、遠藤くん。まだ残ってたの?」



と、予想外の倉本先輩の声が聞こえて僕はキーボードを走らせる手を休めて顔を上げた。



慌てて時計を確認すると20:47

 

 

「す、すみませ!急いでやりますね!」と再びキーボードに向かおうとすると



倉本先輩は小さくため息。



ああ、僕は倉本先輩から言付けられたことすら出来ないでいる。彼女の隣にビジネスパートナーとして並べるのは一体いつなんだろう。

 

 

と、自分に嫌気を覚えていると



「ちょうど良かった。呑みに行かない?その書類、クライアントが急いでないって言ってたから、明日に回しても大丈夫だから」



突如として現れた、僕にとってはラブアクシデントに目を瞬いていると

 

 

「行くの?行かないの?」と倉本先輩が腰に手を当ててせっかちに言う。



「い、行きます!」僕は慌てて席を立った。

 

 

P.3


 

倉本先輩が連れてきてくれたのは会社の近くの安っぽい居酒屋だった。



「ここ、私の行きつけ」なんて言って、これまた安っぽい暖簾を慣れた動作でくぐる。僕は正直拍子抜けした。だってあの・・倉本先輩だよ?もっとおっしゃれ~なイタリアンとかフランス料理とか、似合いそうなのに。

 

 

「ビールでいいよね、いける?」と倉本先輩はメニューも見ず、ビジネス口調で言って僕は慌てて頷いた。



最初は何を話そうか、そわそわと落ち着き無かった僕だが、倉本先輩はその日良く喋った。



アルコールは強いのか、生ビールを4杯、焼酎ロックを3杯、ウィスキーのロックを二杯いったところで、珍しく倉本先輩は愚痴をこぼした。

 

 

「知ってるわよ、私が会社で嫌われてるってのは。キミの同僚も噂してたでしょ」



と同意を求められ、僕は頷いていいのやらいけないのやら。



「上司はねー、経費削減できないのかってあれこれ言って来るし、新人は育たないし。私の指導がいけないんだって言われるし」



あーもー……

 

 

と言いながらうな垂れたこうべから、またもほつれ毛を発見。酒の力もあるのだろうか白い首がほんのりピンク色。



凄く―――色っぽい。

 

 

P.4


 

流石にそれだけ酒を開ければどんなに強い人でも酔うだろう。



「もう遅いので帰りましょう」と僕が切り出したのは深夜も0時は回っていた。



「明日も仕事があるし」と僕が言うと



「明日も?」倉本先輩は若干とろんとした目でまばたき僕を見上げてくる。

 

 

ぅわ!その視線ヤバイんだって!



と、僕だけが理性と戦ってる。







「明日も遠藤くんは私の傍で働いてくれるの?」





そう聞かれて、僕は大きく頷いた。



「ありがと」ふっと倉本先輩は涼しく笑った。



あ………やっぱ




好きだ。



どんなことを言われようと、どんなことで怒られようと



この気持ちに変わりはない。

 

 

危うい手つきで会計を済ませ、倉本先輩をタクシーに乗せたはいいけれど先輩はシートに腰を下ろした瞬間、首を揺らして船を漕いでいる。



心配になって僕が送っていくことにした。



決して下心があったわけじゃない。だって家に帰れば倉本先輩には旦那さんが―――

 

 

倉本先輩の呂律の回らない危ういナビで何とか彼女のマンションに到達して、何故か僕が彼女を抱える形になって部屋まで案内してもらう。これまた危うい感じで鍵を取り出し、扉を開けると、そこは




真っ暗ながらんどうだった。





いや、完全ながらんどうではない。ダンボールがいくつも積みあがっていて、家具などは何もない。生活感はまるで感じられなかった。

 

 

え―――……?



思わずマンションの部屋の廊下でへたり込んでいる倉本先輩を窺うと、彼女はほんのわずか乱れた前髪を掻き揚げ



「先月、離婚したの。旦那は……訂正、正しくは元旦那は出てった。私もここを引き払うつもり」



その事実に耳を疑った。

 

 

「でも……指輪」



そこ・・を気にしていた僕は変態かと思われそうで慌てて口を噤んだが



「あー…何となく?別に未練とかはないんだけどね。突然指輪が無くなったら、とうとう三行半みくだりはんつきつけられたか?とか噂されるじゃない」

 

 

倉本先輩はまるで少女のようにふわふわ笑った。



「いや、それ笑えないし」



「だよねー……あーあ、私何もかも中途半端。仕事もダメ、家庭もダメ。こんな女誰も好きになっちゃくれない」

 

 

倉本先輩はズルズルと壁を滑り、とうとう廊下に寝転んだ。

 

 

 

P.5

 


 

僕はそんな倉本先輩の顔を覗き込みながらそっと彼女の髪からまとめたピンを取り去った。



ふわり、と黒い髪が梳かれ床に優雅に流れる。






「先輩、



そんな先輩が好きなんです―――



頑張ってるあなたが




好きなんです。




だから中途半端なんて言わないで」





彼女の耳元でそっと囁くと、先輩は「ん~?」とうわごとをもらし気持ち良さそうに目を伏せとうとう眠りに入ったようだ。僕は着ていたスーツの上着を彼女の肩にそっと掛け



マンションを後にした。



―――次の日



「遠藤くん、この数字間違ってるわ。やり直し…」



「はい!十分以内にメール送ります!」



僕が倉本先輩の言葉を先回りして言うと、彼女は赤い唇にちょっとだけ微笑を浮かべた。けれどすぐ表情を引き締めるとまたもふいと顔を逸らしてピンヒールを鳴らして行ってしまう。



けれど彼女が立ち去る瞬間聞こえた。







「いつからそんなに成長したのよ、



なんて言っちゃって。オトコの顔見せてるんじゃないわよ」






僕は喉の奥でくすっと笑みを漏らした。



昨日のこと覚えてんじゃん。



頑張っちゃうよ??

 

 

~END~